最期の一瞬
全国紙の一面に、東名高速道での事故が載っていた。11日午前、11tトラックの後輪が脱落し、それが跳ねながら反対車線に飛び込んだ。ちょうどそこを走ってきた観光バスのフロントガラスを突き破り運転手が亡くなったという。
当日はその運転手の57回目の誕生日だった、という痛ましさもさることながら、驚くべきは事故後コントロールを失ったバスが、どこにも当たる事なく停止した事にある。当時乗客乗務員は40名が乗っており、高速走行中であることを考えれば、悲惨な二次災害を起こしていた可能性もあった。
詳細は不明ながら、紙面には病院に搬送等のくだりが無いため、この亡くなった運転手は、ほぼ即死に近い状態であったと思われる。しかしその最期の一瞬、致命的なダメージを負いながらも、彼はバスのサイドブレーキを引き、安全に停止させた。まさに執念という他無い。
以下は事故当時バスに乗っていた人等の証言である。
−−−(4/12付け朝日新聞朝刊35面より抜粋)−−−
○バスは急に止まることはなく「スーッと停車した」という。
○「バスガイドさんが慌ててサイドブレーキを引こうとしたら、すでにブレーキは引いてあった」と証言する。
○同バスの幹部は「県警の人が『あの状況でよくブレーキを引いた』と言っていた。運転手は、意識があるかないかの状況のなか、タイヤの衝突地点から200メートル以内で車を止めたらしい」と話した。
−−−−(抜粋終わり)−−−
彼はその瞬間に何を感じ、何を思ったのだろうか。一瞬の出来事の中で、何が起こったのかも分からず、そのまま逝ってしまったのだろうか。いや、そうは思えない。
少なくともサイドブレーキを引いた事実からは、最後まで車輌をコントロールしようとしていた意志と、自分以外の人への配慮を感じる。
何故サイドブレーキだったのか?とっさの判断であれば、フットブレーキを使うのが自然だ。既に足に力は入らなかったか、車輌停止までペダルを踏み続けるだけの力と時間は、もう残されていないと悟ったのかもしれない。だからこそのサイドブレーキなのだとすれば、彼は全てを認識した上で考えうる、ベストの判断を下した。勝手な推測かも知れないが、そうとしか考えられない。
多くの乗客を救い亡くなった、運転手氏の最期の執念に敬意を表するとともに、ご冥福を祈りたい。
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